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“薬の履歴書”を辿り、成り立ちを知ることで実感する 研究と基礎科目の重要性/創製薬科学入門

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対象:薬学部 2年生 
大学院医歯薬学研究部 薬学域 薬品製造化学分野 教授
山田健一(やまだけんいち)

とくtalk2025年秋号掲載/取材 2025年8月)
 

“薬の履歴書”を辿り、成り立ちを知ることで実感する   研究と基礎科目の重要性/創製薬科学入門

全国にある薬学部の多くは医学部薬学科から派生していますが、徳島大学薬学部は唯一工学部の製薬学科が独立して設立されました。この歴史的背景を踏まえ、「薬を作ることに貢献する」という創立精神を色濃く反映している授業が「創製薬科学入門」です。 

授業は薬の成り立ちなどを学生が自ら調べて発表するという形で進みます。薬の成分や作用などの基本的な事柄だけでなく、その薬を誰がどのように開発して社会に普及してきたのかを掘り下げ、いわば“薬の履歴書”を紐解くように調査し発表することで、薬の開発が関わった研究者の個性とも密接に結びついていることや、基礎科目の重要性を実感できるようになっています。 

発表は3人1組で行われ、対象となる薬は抗生物質の「ペニシリン」や高コレステロール血症治療薬の「プラバスタチン」、「新型コロナワクチン」など回ごとに決まっています。 

発表はエントリー制で希望者が多い場合は選抜で決まります。人気のある薬は倍率が高く発表の機会を逃すことも。逆に知名度の低い薬を選ぶと発表のチャンスを得やすいため、どの薬を選ぶかチーム同士の戦略が問われるゲーム性もあります。 

評価には内容の深さ?情報の正確さに加え、スライドの見やすさや話し方の工夫といったプレゼンテーション技術も重視されます。発表後は質疑応答が行われ、活発な意見交換によって理解が一層深まります。 

“薬の履歴書”を辿り、成り立ちを知ることで実感する   研究と基礎科目の重要性/創製薬科学入門

授業を担当する山田先生によれば、「この授業は臨床薬学コースと創薬研究コースに分かれる前の導入教育としての役割も担っています。臨床の現場で活躍する薬剤師はイメージできても、新しい薬を生み出す研究がどんな仕事かイメージできない学生が多いようです。臨床と創薬その双方のイメージをもつことが自らの進路を考える土台となります。また、薬学には有機化学、物理化学、生化学など基礎科目の知識が欠かせませんが、難解なうえに臨床科目と比べて退屈と感じる学生もいるようです。それらを学ぶモチベーションを高め、創薬や研究に興味を持つきっかけになればと思います」とのことです。 

創製薬科学入門誕生秘話 

“薬の履歴書”を辿り、成り立ちを知ることで実感する   研究と基礎科目の重要性/創製薬科学入門
鋭い質問が次々を飛び交い、授業は白熱していました。 

かつて徳島大学薬学部には4年制と6年制の2つの学科が設けられ、学生は2年生になるとどちらへ進むかを希望する仕組みになっていました。6年制を選ぶと国家資格を取得して薬剤師に、4年制は大学院修士課程(さらには博士課程)へ進学して製薬企業などへ就職する道が一般的でした。そうした中で、4年制の学生が製薬について学ぶ機会を設けようという思いからこの授業が始まりました。 

“薬の履歴書”を辿り、成り立ちを知ることで実感する   研究と基礎科目の重要性/創製薬科学入門

「高校を卒業したばかりの学生が、薬学部に進学したからといって、『製薬とは何か』を具体的に思い描けるかというとなかなか難しいと思います。そのイメージを助ける意味も込めて導入的な位置づけで授業を始めました」と当時を振り返ります。

「薬学部=薬剤師」だけじゃない“薬を作る”伝統がキャリアの道標に

オルテクサーを取り上げたグループ?
オルテクサーを取り上げたグループ 

取材日の授業は学生たちが興味のある薬を自分たちでピックアップして発表する「自由課題」の回。口内炎の薬「オルテクサー」を取り上げたグループと、発表者がアルバイト先で知ったという「塩酸ジルチアゼム」について取り上げたグループとが発表しました。

塩酸ジルチアゼムを取り上げたグループ?
塩酸ジルチアゼムを取り上げたグループ 

「オルテクサー」には、口内炎の治療薬という身近な薬だったこともあり使用感や匂いなどについての質問が多く、一方「塩酸ジルチアゼム」には薬を構成する化合物や化学構造への質問が飛び交い、発表を聞く側の学生はまるで審査員のよう。実際、彼らは授業の終わりに各発表について採点シートを提出します。スライドの使い方などについても「色使いがシンプルでわかりやすい」など細かなフィードバックを書き込むようになっていて、プレゼンの学習にも役立っているといいます。 

塩酸ジルチアゼムを取り上げたグループ?

こうした形式を取り入れたきっかけはFD(ファカルティ?ディベロップメント/教員が授業内容?方法を改善し、向上させるための組織的な取組)だったそう。 

「FDでこのような形式の授業の紹介があり、『これは面白いな』と思って。どういう風に取り入れたら学生たちに興味を持ってもらえるだろうかと考え、薬について発表するという形にしました」。 

塩酸ジルチアゼムを取り上げたグループ?

この授業は選択授業なので全員が取るわけではありませんが、今年は3人1組で15班が履修したそう。エントリーは自分が聞いたことがある薬に集中する傾向があり、今年は新型コロナワクチンの回が最も多かったとのこと。「『興味のある薬について調べたい』という学生の主体的な思いがテーマ選びに表れているのでは」と山田先生は話します。 

「1年生の間は一般教養など基礎的な授業が中心で、せっかく薬学部に入学してもすぐに薬の話を聞けるわけではありません。この授業では薬について学べるので、『薬についてもっと知りたい』という思いが授業に参加するモチベーションになっているのではないでしょうか。 

薬の作用や副作用、使い方や注意点といった内容は他の授業でも学びますが、『その薬がどのように作られたのか』、『どのような経緯を経て世に出たのか』といった薬の歴史を学ぶ機会はほとんどありません。この授業を通じてそうした背景にも興味を持ってもらえたらと考えています」。 

2年生はこれから臨床の道に進むのか、創薬研究に進むのかを意識し始める時期でもあります。 

「メーカーに進むとこういう研究ができる。もしこういう分野に興味があるなら挑戦してみてはどうか、という思いを込めて授業を行っている」といいます。 

「高校生や入学したばかりの学生にとって、“薬学部といえば薬剤師”というイメージが強いのが現状です。研究や製薬の道があることを知らなければ選択肢にすら入りません。だから、まずは知ってもらうことが大切だと考えています。 

これから少子化がますます進み、大学を取り巻く環境はどんどん厳しくなっていきます。そうした中で、徳島大学薬学部ならではの特徴をしっかりと打ち出し続けることができるよう、受け継いでいきたいと思います」。 

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