学習目標
- 大学のレポートと高校までの感想文?作文との相違を説明することができる。
- レポートにおける構成の仕方を説明することができる。
- レポートに不適切な表現とは何かを説明することができる。
- 資料や参考文献からの引用?要約のルールを守り、出典表示を適切に行うことができる。
1.概要
ここではレポートの書き方の基本を説明します。レポートには一般に、報告(書)という意味がありますが、ここで言うレポートは、もっと限定して大学の授業の課題として出される短い学術文書のことです。レポートや論文は本来学問上のツールですが、その作成の作業を通じて、情報を収集し分析する力、文献を読解し要約する力、批判的思考力、文章表現力など、社会において知的な作業をおこなう上で不可欠な諸能力を養成することもできます。
2.「文章力」の4つの観点と尺度
「文章力」には、「①主張の根拠付け」「②構成の明快さ」「③文章表現の適切さ」「④出典表示など」の4つの観点があります。以下では、これら4つの観点と、それぞれの「尺度」について、「<文章力>ルーブリック」に基づいて説明します。ルーブリックを参照しながら読むとよりわかりやすくなります。
「①主張の根拠付け」
高校までの読書感想文や作文では、個人的な体験や主観的な感情を書いてもよく、それで評価されるという面もあったかもしれません。その影響か、学生のレポートにも以下のような箇所が見られます。
例1)私は小学生の頃野球を始めた。小?中のときはプロ野球選手を、
高校のときは甲子園大会出場を夢見て、日々練習に取り組んで
いた。そう、私は当たり前のように野球をしていたのだ。
例2)私はこの本を読んで、今生きていることにもっと感謝し、親孝行
して生きていこうと思った。
例3)この小説の後半は涙なしには読めませんでした。ストーリーの
前半は大貫の傲慢な振る舞いに腹が立ち、他の個性の強い登場
人物にかき回され〔????〕
しかし、大学のレポートでは、唐突に道徳的なことを述べたり、大げさな感情表現をしたりするのは避けた方がよいでしょう。それはむしろマイナスに評価されます。レポートは、ある主張を述べ、それを根拠付けるものであり、客観的、一般的な書き方をするべきです。もっとも、個人的な体験については、このような根拠付けに役立つかぎりにおいて、分野によっては許容されることもあります。
以下の二つの例では、書き手の主張とその根拠付けが、論理的に明確になされています。
例4)いじめを防止するために、小中高にも大学のような、自分で受け
たい授業を決め授業によって移動する制度を導入すればよい。
毎日同じ教室で同じクラスメート、皆で同じ授業を受けるという
状況では人間関係も固定しやすい。大学のような方法だと毎回
授業によってメンバーが変わるので人間関係が固定しにくくなり、
クラス内で上下関係が決まっていくといった、いじめになりやすい
環境になるのを防止できると思う。
例5)著者はヘイト?スピーチに対して「他者の人権を侵害するような
表現は表現の自由の乱用であり許されない」と述べている。私も
同意見である。1948年に採択された「世界人権宣言」では、す
べての人間が生まれながらに人権を持っているということが宣言
されている。表現の自由が保障されているからといって、他者
(主にマイノリティ)の人権を傷つけていいはずがない。
それでは、以下の例で主張は根拠づけられているかどうか、考えてみてください。
例6)彼ら〔イギリス人〕の活力は一杯のティーから来ると言っても
過言ではない。なぜなら、18世紀には体に害を与えるお酒より
も茶の方が健康に悪影響を及ぼさず、むしろ積極的に飲んだほ
うが健康によい、と労働者の中で言われ始めたからだ。
この根拠付けでは不十分です。「言われ始めた」だけで茶が活力の源になるとは考えにくいからです。4や5のような例は、この観点では「(A)期待通りです」の評価となりますが、それ以外の例は、「(B)まずまずです」「(C)努力しましょう」の評価の原因となるでしょう
要点:レポートにおいては、主張を述べ、その根拠を示さなければならない |
「②構成の明快さ」
レポートの構成は、読み手から見てわかりやすいのがよいでしょう。複雑であるよりもシンプルな方がわかりやすく、書き手も見直しがしやすくなります。また、はじめに素材や着想を短い言葉で列挙し、それらを自然な、説明しやすい順序で並べ、だいたいの全体構成を決めてから書くようにしましょう。それでうまくいかないこともありますが、そのときは補足や削除、順序換えをして当初の構成を修正し、書き直しをします。このような作業の繰り返しがレポート作成である、とも言えます。
構成を考える上で手がかりとなるのが、段落と接続表現です。段落は、関連のある複数の文をまとめたもので、ひとまとまりの一貫した内容を表現します。その内容とあまり関係のない要素は、同じ段落の中に書かないように整理しましょう。文と文、段落と段落の関連づけをするのが、接続表現です。前後の論理的な関連づけを意識して、適切な接続表現を使いましょう。まずはよくない例を挙げてみます。
例1)今回、この読書レポートに用いた本はさまざまなテーマについて
論じている。ゆえに本レポートではその中から日本のエネルギー
問題について論じる。
「ゆえに」を用いているのに、後文は前文の帰結になっていません。むしろ接続詞がない方がうまく通じます。
例2)捕鯨支持国の日本では、縄文時代から鯨肉は食されており、
戦後には食糧問題の改善策として鯨が用いられた。それ以来、
捕鯨というものは日本の伝統的な文化となっている。
「それ以来」の「それ」は縄文時代なのか戦後なのか、両方とすれば幅がありすぎます。「それ以来」を「このように」に換えるのならよいかもしれません。
全体の構成の例としてよく見られる基本的なものは、「序論?本論?結論」です。多くの場合、序論と結論は短めで本論が長めになります。序論では、何を主張するか、どんな問題設定をするか、どんなテーマを扱うかを示し、これによってレポートの目標を明らかにします。理科系の場合には、序論で結論があらかじめ示されることが多いようです。本論は、序論の問題設定などを受けて結論へと至る筋道や主張の根拠付けを示す部分で、たいていはさらにいくつかの部分に分かれています。結論は序論の目標に答える部分であり、本論の内容から導かれる全体の主張を明確に示します。
この観点でA評価の例を挙げてみましょう。新入生に課された読書レポート(字数制限はA4で1枚、1000字程度まで)で、杉浦由美子『女子校力』(PHP新書、2013年)という本を読んで書かれたものです。ついでに、レポートの形式的な点について、傍注を加えてみます。
レポート例と傍注(PDF 147KB)
この文章には、四つの段落があります。第一段落が序論に当たり、ここで「男女共学校と女子校のどちらに通うのがよいか、以下で考察する」と、問題設定がなされます。続く二つの段落は本論に当たり、第二段落では女子校の利点と欠点が簡潔にまとめられ、それぞれの根拠となる本の箇所がページ数付きで示されます。第三段落では、男女共学校の利点と欠点が同様の仕方で列挙されます。第四段落は結論です。このように全体の構成はシンプルです。
そして、この学生が下した結論は、「女子校にも男女共学校にも通う経験をするのが一番よい」というユニークなものでした。実際、女子であれば共学の高校から女子大への進学なども可能です。その根拠は次のように書かれています。「女子校の利点と男女共学校の欠点、女子校の欠点と男女共学校の利点が対になっている。一方だけ通うと欠点は残る」と本論のまとめを受け、「しかし、どちらにも通うことで、女子校の欠点と男女共学の欠点をほぼ補うことができる」と結びます。この論理も明快です。細かい点では改善の余地もあるでしょうが、いろいろな制約の中で初めて書くレポートとしては、よいできばえのものとなっています。
要点:レポートの構成はわかりやすくすべきであり、論理的関連づけを意識して適切な接続表現を使うべきである。 |
「③文章表現の適切さ」
レポートでは、間違った表現や誤解を招く表現を避け、読み手にとってわかりやすい書き方をすべきです。また、普通は正しいとされている表現やよく使う表現であっても、レポートには不適切な場合もあります。具体的には、「です?ます調」は使わず、「だ?である調」で書きます。また、話し言葉も使用すべきではありません。例えば、「????とか」「????なんて」「????みたいな」「言ってる」「ちゃんと」「ざっくりした」「すごく」「超」「なんで」などが話し言葉です。
次の例は、ある学生が書いたレポートの結論部ですが、問題点はどこにあるでしょうか。
例1)合理的と非合理的、このバランスが上手いこと釣り合った先に
その「理性の最後の一歩」が見えてくるのでは?と著者も教え
てくれています。自分の中でもそのバランスを意識しながら
広い視野を意識し大学生活また今後の人生も送ってみようと
思った。
まず、「います」と「思った」というレポート以外でも禁じ手の語尾の不統一があります。「上手いこと」「見えてくるのでは?」は話し言葉なので、「うまく」「見えてくるのではないか」の方がよいでしょう。「?」や「!」は正式な日本語の文章ではあまり使いません。「意識しながら」「意識し」という重複も気になるので、例えば後の方を「持つように努めて」に修正するとよいでしょう。また、内容的に、結論が個人的抱負になっている点も問題です。
主語と述語など、前後がうまく連結されていないという「係り受け」の問題点も、学生のレポートにはよく見られます。文が長いとこの誤りに陥りやすく、読み手にとってもわかりにくくなるので、なるべく長文を書かないのが無難です。次の例を見てみましょう。
例2)そのような面からしても、フリーメイソンが日本では謎の
秘密結社であるというイメージを持たれる理由なのではないか。
「そのような面からしても」を生かすなら、「持たれるのであろう」などで終わるべきでしょうし、「理由なのではないか」を変えないのなら、「そのような面が」で始めるべきでしょう。
誤解を招く表現でよく見られるのは、修飾関係が幾通りかにとれてしまうような文で、ひとつの形容詞(句)が複数の名詞を修飾する可能性、あるいはひとつの副詞(句)が複数の動詞を修飾する可能性などがあります。できるかぎり、解釈がひとつに限定されるような書き方を心がけましょう。
例3)日本政府は紛争の長期化を回避するため会議に参加しな
かったパキスタン政府へ再度打診を試みた。
太字部分は、会議に参加しなかったパキスタン政府の意図なのか、再度打診を試みた日本政府の意図なのか、この文だけからはわかりません。このような問題は、読点(、)を意識的につけることや語順を変えることにより回避できます。例えば日本政府の意図であるならば、「〔????〕パキスタン政府へ、紛争の長期化を回避するため再度打診を試みた」とすれば解決します。
この観点での評価は減点法であり、誤字脱字や上述のような表現上の問題点がほとんどなければ「(A)期待通りです」、1000字(A4で1枚程度)あたり4つまでであれば「(B)まずまずです」、5つ以上であれば「(C)努力しましょう」となります。レポートの相互評価をする場合は、自分の好みを規則として押し付けないよう、寛容と自己批判の態度で臨みましょう。正しい書き方はひとつではなく、幅があるのです。
ちなみに、表現力を身につけるには、なんといっても書に親しむこと、読書の習慣をつけることが肝要です。それも、ノウハウ本やライトノベルなどの読みやすい本ではなく、いわゆる古典、名著と呼ばれている本を、比較的時間のある学生時代に読むことをおすすめします。これらは先人の知恵の結晶であり、それを読むことで知性や感性を磨き、人生の糧とすることができます。論理的な文章に慣れるには、岩波新書や中公新書、ブルーバックスなどで自分の興味ある対象を扱っているものから入るのがよいでしょう。これらの書物をたくさん読んでゆくうちに、多様な表現に慣れ、自分でも使えるようになるだけでなく、想像力や発想も豊かになり、結果としてさまざまな意味でレポートも書きやすくなります。文章力養成には回り道かもしれませんが、それは楽しく有益な回り道となるでしょう。
要点:レポートにおける不適切な文章表現とは、文法的な誤り、誤解を招く(多義的な)表現、話し言葉、です?ます調などである。 |
「④出典表示など」
高校までは、本やインターネットで調べたことをそのまま何の断りもなく発表しても咎められず、ほめられることさえあったかもしれません。しかし大学では、それは剽窃(盗作)、コピペなどと言われ、不正行為とみなされます。それは他者の創作物を自分のもののように偽ることであり、知的誠実さの欠如、著作権の侵害ということになるからです。他者の著作を参照(引用?要約)するさいは一定のルールや方法に従い、さらに出典を明示しなければなりません。そうすることで、関心を持った読者がさらに自分で調査することも可能となる、というよい点もあります。
引用は、正確?厳密におこなうべきであり、原文と違ったものにしてはいけません。(ただし、長い引用の中の不要な部分は〔中略〕または〔????〕で省略します。) この原則は内容的にも適用すべきもので、前後の文脈を無視した引用はしてはいけません。例えばある著作の中で反駁されている主張を、擁護されている主張であるかのように引用するのは間違いです。また、自分のオリジナルな部分と他者の著作から引いてきた部分は、明確に区別しなければなりません。
引用部分は、短い場合は「 」でくくり、長い場合は上下を一行分あけて一字か二字分インデントをずらして書きます。他者の著作の内容を自分なりの言葉でまとめる要約の場合にも、どこからどこまでがその部分なのかを、「〔人名や書名〕によれば」などの表現で示し、自分のオリジナルな部分とは明確に区別します。もうひとつのルールは、自分のオリジナルな部分の方がメインであるべきで、引用や要約が多すぎたり長すぎたりするのはよくないということです。
出典表示については、参照注と文献表により読者が引用などの出所に確実にたどり着けるよう、必要な要素を示します。参照注のひとつの方法は、引用や要約に( )つきの情報を示すもので、著者名(姓のみ),発表年,引用ページを挙げます。例えば、(樋口, 2014, p.117)、(Clyne, 2003: 59)のような仕方です。
- 書名など詳細は、次のような形でレポート末尾の参考文献表に記します。
樋口直人(2014)『日本型排外主義』名古屋大学出版会 - 欧文文献の書名はイタリックにします。
Clyne, M. (2003). Dynamics of Language Contact. Cambridge: Cambridge University Press. - 参照される論文が、本(論文集)や雑誌に掲載されていることもあります。その場合、和文文献では書名(または雑誌名)を『 』に、論文名を「 」に入れ、欧文文献では書名(雑誌名)のみイタリックで書くのが普通です。
村田明広(2003)「徳島県木沢地域の黒瀬川帯北緑部の地質構造」『徳島大学総合科学部自然科学研究』17,7-17
Cohen, J. (1992). A power primer. Psychological Bulletin, 121, 155-159. - 文献表に挙げられたものは著者名の50音(欧文はアルファベット)順か発行年順に並べます。
- インターネットの情報については、参照したホームページの作成者名、表題、URLと(更新されることがあるので)検索した日付を注などに明記します。
文部科学省 2019 疯狂体育,疯狂体育app下载3年度からの大学入試
https://www.mext.go.jp/nyushi/ (アクセス:2020年3月31日)
参照注にはもうひとつの方法があります。著者名(姓名とも)、『書名』、出版社、出版年、引用ページの順で記し、本文中の引用の直後に添えるのではなく、脚注か文末注にします。一例を挙げます。川島重成、高田康成『ムーサよ、語れー古代ギリシア文学への招待』三陸書房、2003年、98頁。参考文献表にも、ページ数以外の要素を同じ順序で記します。ちなみに、次頁の文献案内はこの第二の方法にしたがって書かれています。
出典表示のルールや慣習については、学問分野によって多少相違がありますので、詳細については各授業の担当教員の指示にしたがってください。
要点:資料や文献を参照するさいは、引用?要約した部分と自分のオリジナルな部分を明確に区別し、出典を明示すること。 |
さらに「文章力」について学びたい人へ:文献案内
- 小笠原喜康『大学生のためのレポート?論文術』講談社現代新書、2009年
?少々細かすぎる点や決めつけもあるが、出典表示の仕方については非常に詳しい。卒論の書き方、スケジュールの立て方まで書いてある。 - 古郡廷治『文章ベタな人のための論文?レポートの授業』光文社新書、2014年
?断定的決めつけはあまりなく、いろいろな可能性を想定し、具体例が多くわかりやすい。 - 山口裕之『コピペと言われないレポートの書き方教室』新曜社、2013年
?出典表示のルールに詳しいだけでなく、学生レポートによく見られる当たりさわりのない一般的結論への批判もなされている。 - 本多勝一『日本語の作文技術』朝日文庫、1982年
?文章作法一般に関する解説書で、多くの規則を少数に収斂させる合理的方針に従っている。有名作家や自分自身の文章さえも槍玉に挙げる批判精神は参考になる。 - 松本茂、河野哲也『大学生のための“読む?書く?プレゼン?ディベート”の方法』玉川大学出版部、2007年
?ライティングだけでなく汎用技能一般についての優れた入門書で、深いところまで立ち入っている。 - 大野晋、浜西正人『類語国語辞典』角川書店、1985年
?何かを表現しようとして思いついた言葉よりもっと的確な表現があるはずなのだが、それが出て来ずもどかしい思いをしたときに言葉を探す本。語彙力強化や翻訳にも役立つ。 - 黒田龍之介『大学生からの文章表現 無難で退屈な日本語から卒業する』ちくま新書、2011年
?著者はロシア語?ロシア文学の先生だが、レポートに限定せず読ませる文章を書くことを目的とした授業の体験をもとに書いた本。語り口も面白いが、特に学生の例文の中には、笑いを誘うものがある。
SIH道場 ラーニングスキル<文章力>ルーブリック評価表.pdf (PDF 343KB)