「SIH 道場~アクティブ?ラーニング入門~」は、徳島大学の1 年生全員が受講する教育プログラムです。大学での学修の基盤となる知識、技能、態度を身につけるために、次の3 つを目的としています。
①専門分野における先端研究の体験を通して、専門分野に対する興味関心を高め、
徳島大学での学修?研究に対して意欲的に取り組むための心構えを身につける。
②能動的学修を行うために必要なラーニングスキル(文章力、プレゼンテーション力、
協働力)の基礎を身につける。
③自らの学修経験を振り返ることで主体的に学修計画を立て、実施することができる
習慣を身につける。
本節では、「SIH 道場」の概要について、詳しく紹介していきます。
学修目標
- SIH道場の目的?概要について説明することができる。
- SIH道場で修得する3つのラーニングスキルについて説明することができる。
- SIH道場を受講するために必要な事項の理解、適切な操作を実行するためのスキル、受講のための心構えを修得することができる。
1.SIH道場とは?
(1)SIH道場の概要?目的
SIH道場は、「鉄は熱いうちに打て(Strike while the Iron is Hot)」の精神に則り、徳島大学に入学したばかりの新入生を対象に、大学での学修において必要となる基礎を修得する、そのはじめの第一歩になるプログラムです。新入生の皆さんは、これまでに受験勉強として、すでに明らかにされている事柄について勉強し、正しい知識を正確に記憶するという学習を行ってきたのではないでしょうか。
大学では、正確な知識を記憶するだけでなく、修得した知識を基盤として、まだ解明されていない未知の事柄や正解がただ一つだけではない事柄について「探求」していくことが求められます。また、気づいた人もいると思いますが、大学からは「学修」という漢字を使用します。これには、大学で修得する知識やスキルは、独立したそれぞれの専門分野、教育プログラム、課外活動、経験から学ぶのではなく、4年間、または6年間の教育課程全体を通して、「学び」「修めて」いくものであるという意味が込められています。
徳島大学に入学し、学部や学科において専門の学修を始めるためには、まず大学での学修スタイルは、高校までの学習スタイルと大きく異なることを認識し、大学で学修していくための準備を行うことが大切です。このSIH道場では、高校生までの受動的学習スタイルから脱却し、能動的に学修するアクティブ?ラーナー(「2.大学での学修:アクティブ?ラーニング」で紹介)へ変貌するための第一歩を踏み出す基礎力を修得します。
(2)学習の内容
SIH道場では、大学での学修に対する意欲を高め、学修を行うために必要な基礎力を身につけるために、①専門分野の早期体験、②ラーニングスキルの修得、③学修の振り返りを行うこと、を主な内容として設計しています。それぞれの内容について、もう少し詳しく説明をしていきます。
①専門分野の早期体験
専門分野の早期体験は、その名の通り、みなさんがこれから学修しようとしている専門分野では、どのような研究が行われているのか、数年後にはどのような「探求」をしていくことになるのか、また卒業後にはどのような進路や現場が待っているのかについて、大学での学修を始める前に知っておくことを目的に実施します。
みなさんが大学での学修を通して目指すべき将来の目標と、学部や学科において学修する専門科目の内容とを関連づけることで、大学での学修について興味や希望を持ち、困難な時があっても心の支えになるみなさん自身の学修意欲を高めます。
②ラーニングスキルの修得
SIH道場では、大学での学修を行うための基礎となるラーニングスキル(学修するためのスキル)を修得します。大学の授業では、知識の修得だけでなく、グループワークやプレゼンテーションを行う機会があり、レポート課題が出されます。知識を教えてもらうという受け身の姿勢ではなく、自ら積極的に授業に参加をして、必要な知識やスキルを修得して行くことが求められます。そのために必要となるラーニングスキルとして、
<1>文章力
<2>プレゼンテーション力
<3>協働力
を修得します。
SIH道場で修得するそれぞれのラーニングスキルについて、もう少し詳しく説明をしていきます。
<1>文章力
ここでの文章力とは、「自分の考え(学修した内容?考察)を文章による表現で、ルールを守り、効果的に相手に伝えることができる力」のことをいいます。
大学の授業が始まると、理系や文系の違いに関係なくレポート課題が出され、レポートを作成したり、高学年になると論文を作成したりすることがあります。それ以外にも、大学における学修の中では、どの分野であっても、自分が学んだことや身につけたこと、調査?研究したこと、その結果に対する考察などを文章で表現する機会がたくさんあります。
学術的な活動において、文章で表現する際には、それぞれの分野に応じて細かいルールがありますが、SIH道場では、どの分野にも共通する基本的なルールとレポートを作成するための準備や方法について修得します。
<2>プレゼンテーション力
ここでのプレゼンテーション力とは、「自分の考え(学修した内容?考察)を口頭による説明や資料を用いて、効果的に相手に伝えることができる力」のことをいいます。
大学での授業や学修においては、文章による表現と同様に、プレゼンテーションを行う機会もたくさんあります。授業の中で課題に対する結果や考察を発表することや、研究会や学会などで口頭発表を行うこともあります。また、就職の面接もプレゼンテーションということができます。
SIH道場では、大学での学修活動において行われるプレゼンテーションについての、基本的なルールや効果的な方法について修得します。
<3>協働力
ここでの協働力とは、「1つの「課題」に対して、他者と協力して取り組むことができる力」のことをいいます。
大学における授業では、グループワークを行うことや、グループで1つの課題に取り組むことがあります。大学で学修していく中では、他者と協力して新しい知識や考えを生み出すことが求められます。また、社会生活においてもさまざまな文化、価値観、専門などの異なる人たちの協力を得ながら課題に取り組むことや、研究活動においても幅広い分野の人たちと共に大きなプロジェクトに挑むようなことがあります。
SIH道場では、他者と協力して1つの課題に取り組むときに注意しなければいけないことやアイディアの発散、収束の仕方について修得します。
③学修の振り返りを行うこと
大学での学修は、これまでも述べたように、先生の講義を聞いて知識を記憶することだけではありません。グループワークやディスカッションを通して学ぶこともあります。さらに、教室内だけで終えることはありません。自宅で授業の予習や復習を行ったり、関連する内容を図書館などで調べたりすることもあるでしょう。また、合宿研修、現場体験やフィールドワークのように大学以外の場所で、体験を通して学ぶ機会もあります。
これらの学修形態では、ただ経験をするだけではなく、経験を通して自分自身に必要な知識やスキルを身につけていくことが重要になります。そこで、欠かせないのが「振り返る(内省する)」という行為です。
学修に関する最近の研究では、人は具体的経験をして、内省し、そこから教訓を得て、次の状況に適応するというサイクルを回しながら学んでいくことが明らかにされています。そして、この「振り返る(内省する)」ことが重要な理由として、具体的な行動をしたすぐ後に振り返ることで、より多くの教訓を引き出すことができると言われています。また、振り返りを行うことで、体験して学んだこと、学修した事柄を頭の中で整理して意識づけることができることも分かっています。つまり、振り返りの質がみなさんの成長に大きな影響を与えるということになります。
SIH道場では、大学でのさまざまな学修体験において「振り返り」を実践していくための習慣を身につけることが目的です。
振り返りの質を高めるためには、振り返りを習慣化させ、振り返り(リフレクション)と行動(アクション)のサイクルを回していくことが大切です。そして、日常的に振り返りを行う習慣をつけるためには、まずは「体験(学修)をした後にすぐ振り返りを行う」ということを実行することです。振り返りを成長に繋げるために次の点について考えてみましょう。
□振り返りを行う時のポイント□
- 体験(学修)した内容をまとめる。
- 体験(学修)から得られた知見をまとめる。
- 体験(学修)の前に立てた目標が達成できているかを評価する。
- 自分自身にとって重要な点をまとめる。また、その理由を考える。
- 今後のアクションプランを作成する。
SIH道場での学修はもちろんのこと、その後の共通教育科目や専門科目の学修、またそれ以外の活動においても、これらを意識して振り返りを行ってみましょう。まずは、できることから実践して、大学生活でのさまざまな体験からより多くのことを学ぶことができるようになるための基盤を作りましょう。
2.大学での学修:アクティブ?ラーニング
みなさんは「アクティブ?ラーニング」という言葉を聞いたことがありますか?これから大学での学修を始めていくにあたって、はじめにこのアクティブ?ラーニングについて、その言葉と意味を知っておいてほしいと思います。
みなさんはこれまでに高校や塾などで、先生から分かりやすくて丁寧な説明を受け、大学受験のための問題の解き方や出題傾向などを教えてもらってきたのではないでしょうか。そして、先生に指示された通りに問題を解き、頑張って勉強していくことで、成績が上がってきたと思います。それが、受験生であるみなさんに求められていた学習だったのではないでしょうか。
しかし、大学での学修は、正確な知識を記憶するだけでなく、修得した知識を基盤として、まだ解明されていない未知の事柄や正解がただ一つだけではない事柄について「探求」していくことが求められます。授業のスタイルについても、座学による学修だけでなく、グループワークやディスカッション、プレゼンテーションを行うことがあります。また、授業の予習?復習についても、やるべき課題を先生から与えられるとも限りませんし、テストが定期的にあるとも限りません。
大学で身につけなければならない能力は、専門知識だけではありません。みなさんが卒業して出て行く社会では、少子高齢化、情報化、知識基盤型、グローバルという言葉で表現されるように、これまでに経験したことがない課題や新しいアイディアが求められています。そのような社会の中で必要とされる能力を大学生の間に培っておく必要があります。
このように、大学での学修においては、専門知識の修得に加え、社会生活でも必要な能力を修得することが求められます。現在、大学の各専攻分野を通じて培う能力として「学士力」(文部科学省2008)というものが提唱されています。学士力に掲げられた汎用的技能(コミュニケーション?スキル、数量的スキル、情報リテラシー、論理的思考力、問題解決力)は、座学によって知識を記憶するだけでは身につけることができないと言われています。身につけた知識を発信したり、あふれる情報の中で適切なものを選択し解釈や分析を加えたり、他者とコミュニケーションをとったり、集団の中で自身の役割を認識して行動をしたり、これらの行為を通して学士力を身につけていくことができるとされています。
つまり、大学での学修は先生から一方的に教えてもらうのではなく、みなさん自身が主体的に専門知識を修得し、それらを他者に対してアウトプットし、コミュニケーションを図りながら、解を見出していくことが必要になります。そのような学修の方法を「アクティブ?ラーニング」といいます。「アクティブ?ラーニング」の定義は、さまざまなところで述べられていて、徳島大学ではアクティブ?ラーニングを次のように定義しています。
徳島大学におけるアクティブ?ラーニングの定義 教員による一方向的な知識伝達とは異なり、課題演習、質疑応答、振り返り、グループワーク、ディスカッション、プレゼンテーション等を取り入れることにより、学生自らが考え抜くことを教員が促し、学生の能動的な学習を促進させる双方向の教授?学修のこと。 |
また、その他にもアクティブ?ラーニングの定義として、文部科学省(2012)や溝上(2014)などによるものが知られています。みなさん自身で調べてみて下さい。
大学の授業スタイルは、座学による講義形式の授業も必要とされていますが、その中でも先生が一方的にみなさんに説明をするだけで終わるというスタイルものはなくなりつつあります。そして、授業でグループワークやディスカッション、プレゼンテーションなどを行ったり、フィールドワークや合宿研修を実施したりする授業が増えています。これも、学生のみなさんがアクティブ?ラーニングを実践する場を共有するために設計されている授業なのです。これらの学修活動に主体的に関わってこそ、社会で必要とされ活躍することができる能力を身につけることができます。
SIH道場で修得したラーニングスキルは、大学で学修を行うために必要なスキルにしかすぎません。これらのラーニングスキルを持って共通教育科目や専門科目の学修の中で主体的にアクティブ?ラーニングを実践してこそ、今回のSIH道場での経験が活かされてきます。
これから始まる大学生活において、あらゆる場面で「アクティブ?ラーニング」を実践できるアクティブ?ラーナーになってほしいと思います。きっと卒業する時には、今とは見違えるほど成長した自分自身に出会えることでしょう。
◆さらに「アクティブ?ラーニング」などについて学びたい人へ:文献案内◆ 文部科学省(2008)「学士課程教育の構築に向けて」 文部科学省(2012)「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」 溝上慎一(2014)『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』東信堂 中井俊樹 編著(2015)『アクティブラーニング(シリーズ教授法3)』玉川大学出版部 |
3.ビデオ教材を使った事前学習
SIH 道場では、3つのラーニングスキルについて、学生のみなさんがいつでもどこでも学修することができるように、ビデオ教材を作成しています。授業の前にはビデオ教材を視聴して予習を行っておくことをお勧めします。また、視聴した後には、簡単なクイズに挑戦してみると良いでしょう。直後にクイズを行うことで教材の内容を振り返ることができます。
また、分からなかった問いがあれば、もう一度ビデオ教材を見直すことで、内容を修得することができます。
3-1.「文章力」を身につけよう
3-2.「プレゼンテーション力」を身につけよう
3-3.「協働力」を身につけよう