論理的に思考する習慣を身につけ、どんな場所でも自分の力を発揮できる人間を育てる
日本薬学会賞受賞と30年ぶりのリバイバル研究に沸く研究室
2005年に徳島大学に赴任以来手がけてきた研究の集大成「自然に学ぶペプチド?タンパク質化学の開拓」により、薬学会を代表する研究業績をあげ世界の学術進歩に著しく貢献した研究者に授与される日本薬学会賞を2022年春に受賞した大髙先生。自然界のタンパク質に見出されるふしぎな現象の本質を科学的に解釈し、ペプチドやタンパク質化学の発展に資する様々な方法論の創出に繋げたこの研究は国際的にも高い評価を得ています。
そしてもう一つ特筆すべき出来事が。『薬学部だよりvol.30』(※)でも紹介された30年ぶりのリバイバル研究です。
「私が大学院の頃に手がけていた研究で、当時失敗の山を築いていたものがありました。コロナで研究活動が思うように進められないとき当時の失敗を思い出し、『だけどこんな展開があるかも???』と学生に話をしました。この話から思わぬ幸運にも恵まれました。というのは、学生がある物質の合成に成功したんです。経緯については専門的になるので割愛しますが、そこから大学院時代に遭遇した失敗の原因が明らかになるとともに当時できなかった物質の合成にも成功しました。当初は予期しなかった方向に研究が展開し、毎日ワクワクしています」。
※『薬学部だより vol.30』は下記HPよりご覧いただけます。 /ph/faculty/letter/
論理的思考を養うために不可欠な書いてまとめる作業
「当時見つけた反応の応用展開を図っていたのですが前述のごとく失敗の連続、学生に話した時もまだ理由はよくわかりませんでした。合成ターゲットを全く変えて学生がチャレンジしたらその合成に成功したんですよ。合成ターゲットを変えたところ、開発した反応を別の角度から見つめることになり、やっと昔うまくいかなかった理由が分かりました」。
学生のチャレンジがきっかけでリバイバル研究につながった話は幸運な偶然のように思いますが、"失敗を失敗のまま放置しない"という大髙先生の研究姿勢が成し遂げた成果です。
「昔からよく言いますけど、やっぱり"失敗は成功のもと"。しかし失敗を放置しても成功には結びつきません。様々な研究を積み重ねる中で、時々、あの時の失敗はこう考えることが出来るのではと思うことがあります。その時、失敗を論理的に考える、すなわち"失敗の言語化"を試みるんですよ。そうすると『あのときの失敗はこういうことだったのか』と失敗の本質が明らかになり一挙に成功への道筋が開ける瞬間があります。
将来研究者にならなくても、それぞれの場所でちゃんと自分の力を発揮できる人間に育ってもらいたい。そのためには物事を論理的に考える能力を身につける必要があります。
もっとも有効な訓練法は正しい日本語でしっかりとした文章を書いて考えをまとめること、その重要性は学生たちに繰り返し伝えています。
物事を考えるとき私たち日本人は日本語で思考します。論理的思考には、正しい日本語でしっかりした文章を書けるようになることが大切です。それができたら次は英語で書けるように訓練する。英語で書けるようになると、今度は日本語がさらにうまくなります。
研究を通じて、考えを日本語や英語を問わず論理的にまとめ上げる、そうした積み重ねが人としての成長にも繋がると感じています」。
想定外のデータこそチャンス到来の合図
研究に大活躍しているマイクロ ウェーブ照射型ペプチド自動合成機
(Liberty Blue)。
失敗を研究者として、一人の人間としていかに成長の糧にできるか、その過程も重要視しています。
「研究をしていると必ず変なデータが出てくるんですよ。研究で一番面白いのはそういう予期せぬことが起きたり想定しない結果が出たとき。それを失敗としてなかったことにしてしまったらただの失敗ですが、なぜ起こったのかまず原因を考える。原因を考えたら原因に対する仮説を立てる。その仮説を実験によって立証できるのかどうか、立証できてその失敗が役に立つようなものならその失敗(実はこの時点で失敗は成功に変質しているのですが)の更なる展開を模索する。
そういうサイクルは研究に限らずすべてにおいて同じです。その訓練がしっかりできていると他でも絶対役に立ちます」。
実験過程や結果、時には失敗も、きちんと言語化して整理し残しておく。その習慣が研修の精度をあげ未来の自分を助ける力になるのかもしれません。
大髙 章(おおたかあきら)のプロフィール
薬学部 教授