事業名:中山間地域の通いの場におけるオーラルフレイル予防対策を起点とした地域住民の包括的支援に関する調査研究事業~“見える化”?“つなぐ化”プロジェクト~
※本事業は,国庫補助事業である
事業概要
長年の運営で危惧されつつある“通いの場”参加者の虚弱化や認知症発症による欠席?脱落に伴う運営の継続困難化の観点から,認知症を含む参加者の(オーラル)フレイルの「早期発見」や近隣不参加者の「抽出」は,行政や関係医療団体によるきめ細やかなアウトリーチに繋がり,ひいては活気ある“通いの場”の持続可能性に貢献する。本事業では,“通いの場”への歯科参画を起点とし,地域住民の口腔機能および認知機能の向上に資する包括的支援体制の構築に向けた調査研究を実施する。すなわち,口腔/認知機能の同時注視の重要性を啓発するとともに,行政と関係医療団体が連携した“口腔/認知機能の同時モニタリングプログラム”を確立?普及させ,さらにその延長線として在宅/施設高齢者への日常的口腔健康管理(口腔ケア)や食生活に関する支援体制の構築を目指す。上記の目的を達成すべく,本申請事業において以下に掲げる調査研究,ICT共有体制の整備ならびにガイドライン策定を行う。
上記の目的を達成すべく,本申請事業において以下の調査研究を実施する。
1. 口腔/認知機能の同時モニタリングプログラムの構築と展開:“通いの場”参加者の,認知機能低下を含む(オーラル)フレイルの「早期発見」を目的に,口腔機能評価法(舌?口唇筋力のアセスメント)と簡易認知機能評価法(かなひろいテスト)を組み合わせ,行政と歯科診療所の連携のもと体系的に実施する同時モニタリングプログラムを構築し,通いの場で展開する。本プログラムを展開するにあたり,簡易認知機能評価法の応用的活用に関する試行的研究および口腔機能と認知機能の関連性や同時注視の重要性を啓発するための行政や関連職能団体への説明活動等を実施する。
2. 興味と傾注を促す口腔体操のバリエーション化に関する検討:要支援/要介護高齢者への日常的口腔健康管理の一環として行う口腔体操の確実な定着を目的に,普及展開中の口腔体操メニューを改良し,要支援者や要介護者の興味と傾注を促せるメニューのバリエーション化と適用可能性に関する検討を行う。
3. ICT利活用による効率的情報収集と効果的情報共有体制構築による在宅高齢者支援の充実化:心身機能の評価,たとえば“健口自助システム”の簡易認知機能評価法の応用的活用に資する再構築,および糖尿病や慢性腎臓病の重症化予防支援に資する連携パス機能構築(プログラム追加)を行う。そして,これら収集情報と個別課題情報の体系化さらに課題解決に係る運用を,在宅歯科医療やアウトリーチ支援へ効果的に繋げるための最適な運用フローを検討する。
4. オーラルフレイル予防プログラム(口腔体操プログラム)の普及活動および各種リテラシー向上のための講話活動:口腔機能や舌清掃習慣といった口腔リテラシー向上が検証された本学作成の口腔体操プログラムのさらなる普及活動を行う。また,新型コロナウイルス感染症の拡大に伴うサロン活動自粛の影響,とくに,(オーラル)フレイルの悪化有無の探索を,感染対策に配慮した新たな解析方法(超音波画像による嚥下機能評価)の試行を加えつつ実施する。
5. “口腔/栄養”目線による見守り意識やオーラルフレイル予防の視点での「自助?互助」意識の醸成に資する各種教育プログラムの実施:事業対象地域の支援職種に対し,アウトリーチにおける“口腔/食”目線を醸成すべく,口腔アセスメントに必要なスキルの享受を目的とした口腔ケア研修会(実習を含む)を,新型コロナウイルス感染対策を講じつつ実施する。また,(オーラル)フレイル予防視点での「自助?互助」意識の啓発と予防行動の定着?推進に資する職員/地域住民対象の教育講演 (講師招聘講演を含むフォーラム形式あるいはWeb形式)を計画する。
これらの事業活動を通じて,地域住民の「自助?互助」意識の強化や,支援職種の“口腔/食支援”目線による速やかな医科?歯科受診勧奨など医療?介護への円滑な連携,すなわち「共助」の強化を図り,口腔/認知機能の同時注視と同時モニタリングプログラムによる地域住民の包括的支援体制を構築する。
参考資料
老人保健健康増進等事業内容参考資料 (PDF 4.08MB)
事業結果の概要及び報告
本事業では“口腔機能と認知機能を同時に注視するという気づき”の啓発に資する諸活動として,まず口腔体操(くっぽちゃん®の健口体操)の導入に関する内容に加え,歯科と認知症との関連性を示しつつ“口腔機能と認知機能の同時注視の重要性”に関する講話を県内各所の“通いの場”で実施した。また,対象者ごとの認知機能および口腔機能を医学的?歯科医学的に有用な測定値として同時に収集できる対象者参加型?発信型のWebアプリケーション(健口自助システム普及版)を開発し,県内の医科診療所ならびに歯科診療所の協力を得てパネルデータ構築のための運用体制を整備した。
次に,保健事業と介護予防の一体的な実施を効果的に推進する方策として,保健師による通いの場でのフレイル健診や個別的支援に資する関連情報の管理ならびに医療系職種との共有?フィードバックを効果的かつ効率的に行える特定健診情報共有システムを構築した。一方,健口自助システム普及版の認知機能評価プログラムの評価妥当性や有用性の検証ならびに効果的な口腔体操の開発?改良に資する科学的根拠を提示しうる測定環境の構築を目的とした調査研究を実施した。さらに,介護予防事業における疾病予防や重症化予防のためだけでなく,要介護認定における歯科への速やかな接続の重要性と必要性の報知を目的として,要介護認定に関わる多職種を対象としたWeb配信による教育講演を実施した。
報告書の第1章において,本事業実施の背景や事業目的および結果の概要を記載している。第2章では,過去の本事業で導入した那賀郡那賀町における要援護者等情報共有システムの利用状況の最新情報のほか,本年度に開発した健口自助システム普及版および特定健診情報共有システムの開発に至る背景や概要ならびにシステム構成を解説している。第3章では口腔保健思想普及啓発活動として,通いの場などにおける口腔体操普及活動(媒体配布?講話活動)の具体内容ならびにWeb配信による医療?福祉?介護分野の多職種を対象とした教育講演の開催概要を説明している。第4章では,地域高齢者の口腔機能の維持?向上に資する調査研究として実施した3篇,すなわち徳島大学歯学部の学部学生および“通いの場”参加高齢者の協力を得て実施した簡易認知機能評価の確立に関する研究,効果的な口腔体操の開発?改良に資する科学的根拠を提示しうる測定環境の構築を目的とした舌電極の作製および舌筋と舌骨上筋群の協調運動に関する解析,ならびに社会福祉施設の協力を得て実施した口腔体操のバリエーション化に関する検討によって得た成果を論文形式で記載している(学術雑誌への投稿準備中のため無断転載禁止)。なお資料編として,地域高齢者に対する口腔体操普及啓発活動(第3章1.)のなかで聴講者である“通いの場”参加高齢者に配布した説明資料や口腔機能測定を実施した高齢者に配布した個別的支援に関する解説書,ならびにWeb配信による多職種対象教育講演(第3章2.)で配布したレジュメ資料を付している。